匂い(2013、2008、2011)

お前が蟹を食ってきたことは匂いでわかる
匂いは、物の影から立ち上るのでない。ツナぎ目が
こすれ合う音を
感じ取ろうとする鼻に付着する。筋肉の粉の
ようなものだよ
まさひさんが家だったものを
ひっくり返し、赤いペンキでバッテン描いて
日が暮れる

朝方にふる雨は宝物になる
葉にたまる雨は
ちいさな山の姿も映る
遠くの坂道も見えるそこはまたちがう山、ちいさな
わたしたちがいて、みんな鬼だった頃の
遊びをしている

二〇ぐらいバッテン描いた、と
せめて意気揚々言えばいいのに悲しむ 行き場を据える権利が
取られる
夕ごはんは今日も中身のないカレーだと
おもうそばから顔出すジャガイモが切なそうだった
年がら年中
いのちを食ったと言って何の足しになる。
わたしは食ねよ。
あー東京も今きっと満点の星空だろう 何が
言いたい。
ふらす雨雲と晴れのツナぎ目
とびこえた足だけが
もう右手の山の峠を駆けぬける
写真ならその涙もにじまないよう表面に
膜が張ってある
カき届こうにも日付は
匂いだけ