川のお父

おまえのあき地を荒らす草の線、わたしを通せんぼする
雨の線とがいり交じる点に立つ
まるい地蔵
あれは見えていいはずのない、埋められたことへの怒り
匂いたつ吐息そのものよ

川のお父のシャベルもつ手がふうじこめたもの
掘り起こされた具合を踏みかためて、おおよろこびで
坂をかけ上がる足は肉付きのいい山びこ
いったりきたりする
唐桑のお兄から牡蠣がとどいて、火にくべていく
二人のすがたは
海沿いのぶいを横切る名札が
持ち主の子に会えない決まりを渡してくる
ほんとうの親子みたいだった

地蔵からしみだすものを受ける土手
まだ枯れてない井戸が犬小屋のとなりにあって
影の三四が
夜ごと庭でおどっていた
じわじわと水のふくらむ音がする。その底にたまるのは
川のお父とが
かたつむりを踏みしだく
ただのわき水だと言いふらすように
前を横切ってすこし
こっちを見る目が、顔一つにつき二つある

その目に一個ずつある井戸のおもてが
ちがう色の山、ちがう川。
それぞれにもつおどり場には
映り込む。
五感をたしかめるお父の指がおちている
お兄の牡蠣はまだあるよ。
蝿に手渡す殻とすり替えられた
戻れますように。
あんなにおいしかったのは
舌を研ぎ澄ませれば見えてくる底で
道具を突き刺す、なにも知らない測量屋さん。
へばりついていた
怒りのたぐいなのでした。