私は友だち

私は友だち

死ぬ前も遠足の味がした。「やっぱり
そうだったよなぁ」みたいな味なんだと思う
友だちは中腹の森をしらべていた。思っていたより
ずっと大きな
足の方から
友だちの服を脱がせている写真。ああ、
この気持ちを
練習していた。私が友だちではなくなって
今度は
きみが友だちになる

みんな頭がわるいから ずーっと前
友だちとずーっと車に乗っていたのが
長い旅だったかな。耳もわるい。蝉が聞こえれば鳴いたと思う
おんなじ声を出したと思う。夏だったから
どんな声にも命の気配がまだあった。iPhone
名前も分からず書き込んだ文字と
文字の間は
もう夜だ。おんなじ車が揺れている。おんなじ声。私も
おんなじ声を出していた。思い出せるのは
生きていることのたしかな証拠だ。明日は
思い出せなくなった
友だちの家に押しかける。
その家は
蝉の匂いがする台所に1つ、浴室に1つ。この2つは
ずっと開けたまま。寝室に1つ。
テレビみたりする部屋に1つ、作業部屋に1つ。友だちが
住みたいと言ってきてくれて
今でも住んでほしいと思っているよ。
友だちは
死んだあとだって
友だちなのだ

(初出『トルタバトン@せんだい テンをつなぐ、』)

私のパン

私のパン

役場の裏に住んでいたシゲユキさん。ちいさい私は
宿題をやってもらうたびにパンをあげていた。
その様子を いつも林の影から
じっと見ている人がいた。あの人は
うらやましかったんだと思う。
シゲユキさんが倍に膨れて死んだ。それからは
林の人にパンをわたした。本当に……
突然のことだった。

人それぞれに道徳の授業というのがあった。
パンというのは
大切な人にわたすものだと聞かされて 思わず
泣いてしまったけれど
そんなに泣かないよう私は言った。
あれから三〇年は経ったらしい。娘が林に入ったきり出てこない。
近くに住んでいる
鈴木くんという人が
シゲユキさんの字で返事を書いて寄越してきた。
あのパンの味が
今でも口の中に残っている。

床屋

床屋

「悪いけど
当店にはセンスがあります」
ほんとかな。
みたいな看板につられて
全体的に3センチくらい短くして
面影だけ残してください
そう言ったのに
明らかに前よりも
長くなっていた
あの店主は
昔は陸上をやっていたという
水中でやっていた
オレにはもう
体がなくて
電池が入る場所も
血でふさがってしまっていて
だれかを守りたい
そんな陸上も
今では
蝉の声が聞こえたような気がしたけれど
獣道を歩いていた時に
ていうかさあ
それって
ちょっと意味わかんないし
べつにわたしそんな気にしてないっていうか
「守る」とか考えてくれなくても
一平なら
大丈夫だし
時間が経って、いい思い出になるってよくあることだし
陸上なんて言ったせいで
いつのまにか
自衛隊の話になってしまった
森を抜けたあと
ふるまいの丘の近くで
町が見える
十億匹ほどの蟹がいて
原産国のない土地を
どうしようもなく
生焼けになってしまった人たち
こちら側のどこからでも
オレを分解する

私を繁栄させるには

私を繁栄させるには

市場でとれた、新鮮な
長い夫婦が肉を食べている
緑色の獣になっている
二人はガムテープで貼った関節に
生まれてくる子どもの
住む場所をつくろうと思い
ツノの厚みや
皮膚の色が
イヤな音のする肉を食べている
音を立てて食べないで
隣に聞こえてしまうから
水をやろうとして
頭のなかで飼っていた
動物の、虫の卵が
私、かわいそうだった

元気が出るおまじない
を毎晩、父がしてくれる
もとは半熟のトマトが入っていて
今は、灰皿として使っている
よごれたツノが、
しわくちゃの指で温度を計る
父の全身に生えている
森をうすぎたないな、と思う
やめる音、小刻みに
動き、やめる音
森の茂みのドロドロをすする音
私を繁栄させるには、どうすれば
ツノが怒りで曲がっていくか
黄色いつばを吐き捨てて
父親の、虫の卵がふえている
頭のなかで
煙草もふやけている

頭のとれた、新鮮な
長い夫婦が肉を食べている

(初出『ねこま』4号)

レミニセンス

昔見た映画に出てきたような道
の上に落ちていた服を着て
どうかなとか言われておれは
今晩の夕食について母親の
人の目を見て話そうと
思ったよりも
電話口の声が聞き取れないことが
外に出ていたからかな
流れ的にはもしかしたら
魚が出るかもしれない
それが人にものを頼む態度だとしてもね

近所で火事が起きているのか
ごめんちょっと声が
もう一度やらなくちゃいけないことが
1ヶ月近く粘ったけど
繰り返しくっつけたり
はがしたりしたせいもあって
静かに結果を待っていただけの
もうじき1年になろうと
まだ起きてるなら
消さない方がいいかってさっき
言ったんだけど
頭1つぶん、遅れていた

今に生きている人が
今月で3人目だな、年の瀬だし
もうここでやめといた方がいい気もして
元に戻せったって無理じゃない?
だって前に読んだやつが
明日行くぶんも含めて
帰ってきてまず確認するのが
ここまでは覚えているのだが
知らないうちに
別の何かになってしまっていて
そういう日は
黙っていればバレないとか
電話してる時ぐらいかなあ
子供の視点に立ったら
邪魔なんじゃないかって思うんだよね

上手く言おうとしてあれになった
思い出すのに時間が
かかったせいもあるんだけど
要するに来年は
充電がそろそろ
食べてくれる動物がちょっとね
これは
さっき見たのと違うな
さっき見たのは
今言ったことの半分くらい
第一印象で決めるのは
何となくいなくなるしかない
みたいなところがあって、どうせなら
また会いたい顔ぶれだけで
さっき見たのは
そうだね、さっき見たのは閉じていたし
どうせ
出ていくところで終わるんだよね

(初出『TRASH-UP!!』何号かは忘れた)

不具合

明日から骨格をきれいに打ち上げている
残りの音と話していたのだが
ここからだと思い、舌の上の耳に行く
走り回るだけになった私が
足音になってしまったものたち
浜辺で おどる

私は中身が
落ちていた服を脱いだら
失う指を代わりに使ってみることだ
葉で葉を洗うために
なる話をしてくれた人ならもう食べた
新しい歯をえらんで抜くことは
他人でなくなることにも生きている
全て、内に広がっていけばいい
育つだけで私たち
やわらかくなってしまうのかな

もう くさってしまったよ
誰も口にすることがなかったからだよ
ぼくは雪のふる
える耳まで私である 日も間もなく
まるで針金か何か
まるで結べた関節それぞれ
そのため、削いだ耳が
日暮れの近い季節になっていくように

果てしなく
足音、
数え終わるまで足音は
何か前向きな方向で
生かせないかどうかについて考えていた
こんな防波堤いらない
こんな向こう側に落ちていくいらない
工場は近く
ぼくはこんなにも育ってしまってやわらかい

遅れて聞こえると
誰もいなかった私が
どうしても混じってしまって夜なのだ
何も騒いでいる、静かでなんかない
どうして
ととのえられて宿屋になったんだ
やがて一斉に明かりも点き始める
町の上書きについて
未だにぼくを貸したまま、きっと
下の骨ごと透けてしまう
だから足
私は悲しくて
十字架で背中を掻いている

(初出『モンマルトルの眼鏡』vol.1)

ベル

騒ぎの上にかけられた
ポリエチレンの、青いシートに溜まる唾
早朝の駅は流れを
避けているビルが
咳込むたびにしないでいる
ベル、私はそういった絵画を
好きでよく焼いて
食べている群れの間を通るには
傷を記憶しない動きで
しるしをいたんだ祈りになっていく
それは、すべてになう前に
明日あるものまで献血するということだ

私は昨日、母を削りました
顔が扉みたいに開いていました
驚いた拍子に
子宮がふくらみ、栗を詰めると
喧嘩を売るような調子で
町を行く人に声をかけている私を
剥き出しになって
栗を詰めていたベルは思い出しました
そのとたん、道の上で
私は母の、糞をしているあなたの
名前を聞いている
いることがやぶれている
たとえばここに、ふるえる煙であることを
訪れる音に耳を、誰か
そこにいるの か
かつて、ざらざらに気付かれた身体を
ベル! 私は音を叫んだ
色の河原が見ています
姿勢をぬぎすて、町の隙間に流し込まれた
噛み合わない音楽に
生きていることを うれしがる
かき集めた苔の
で できたビルにも会って
できる限りの話をしたい
そのためにふるえ
鳴りを一帯に寝かせていくように

なれた土の上、アスファルト
伸ばした目を薄め、私のあそこにある遠く
ビルの毛穴に
刺し込んだ、ベルの顔にはなれても
覆われているそこに立ち
いくらでも為り代わりが
はたらいているあなたは後ろであり
ベルである音に縫い込まれた私を
食べていることは
溶けている雨が
育てて 止まない

(初出『現代詩手帖』何月号かは忘れた)